ヘルシンキ 生活の練習 (朴沙羅 著)

生活の練習

こちらの本を紹介します!

こんな人にオススメ!
  • 「生活の練習」って何?って思った人
  • フィンランドの幸福度の高さに興味がある人
  • 日本は子育てしづらい!生きづらい!と思っている人
  • 社会、福祉、人権意識に興味関心がある人
  • 西加奈子著『くもをさがす』が好きな人

もちろん、該当しなくてもおすすめですよ~
著者の潔い文体が癖になり、サクサク読めて楽しめます!

目次

おしゃれな北欧ライフスタイル本ではない。

最近よくある北欧礼賛!ライフスタイル系の本かと敬遠していたのですが、読んだら全然違いました。

キレキレの社会学者による社会の本。
著者の朴沙羅さんは、1984年京都生まれの2児の母で、現在はヘルシンキの大学で教えてらっしゃるようです。

おしゃれな北欧推しの本は、ちょっと食傷気味だったのですが、この本は面白かった!
フィンランドのこともわかるし、日本で子育て中の私には、切れ味鋭い朴さんの言葉がグサグサ刺さりました。

朴さんと私は、同年代で同じ時代を生きてきたはずなのに、世の中の見方がこんなにも違うのかと驚きました。
朴さんの視点から、日本という国、社会を内側と外側から縦横無尽に見ることができて、私は新しいものの見方、考え方を得た気がします。

フィンランドは幸せの国?

フィンランドと言えば、幸せの国!

2023年現在、フィンランドは世界幸福度ランキング6年連続1位。
日本は47位。(8年ぶりに40位台に回復したそうです)。

柔らかい色彩におしゃれなイメージ。イッタラにマリメッコ。ムーミン。かもめ食堂。サウナ。湖。

フィンランドへ移住なんて、羨ましい~!
旅行でいいから行ってみたい。

でも、朴さんがフィンランドへの子連れ移住を決めたのは私のようなミーハーな動機ではありません。
中学生の時から「日本でも韓国でもない国に住みたい」と願っていた朴さん。

冒頭から

2018年に初めてフィンランドに行って以来、私はいわゆる「北欧推し」のような言説も、その「逆張り」も、好ましいと思えない。
(中略)
相手は、こちらと比較して優れているわけでも劣っているわけでもなく、単に違うだけではないか。その違いは、ときに腹立たしく、ときに面白いものではないか。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

とおっしゃるところが信頼できます。
フィンランドが幸福度1位だからと言って、日本が劣っているわけではない。
47位が1位に学ぼう!という姿勢を捨て、気楽に読んでみよ〜と思えました。

西加奈子さん著『くもをさがす』との共通点

4月に読んだ『くもをさがす』と少し似たものを感じました。
『くもをさがす』は西加奈子さんのガン治療の話が主題なので、そこは大きく異なるのですが、西さんによるカナダ・バンクーバーの話を彷彿とさせるところがいくつもありました。

また、西さんがカナダで医師や看護師さんに出会ったように、朴さんはヘルシンキで保育士さんや子育て支援者に出会います。
そして、その人たちの考え方や言葉から得た気づきや、その人たちの外国語を関西弁で書くところも似ています。

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フィンランドの保育園 日本との最大の違い

日本との最大の違いは、保育園に入る権利は、保護者である親の労働状態にではなく、子どもの教育を受ける権利に紐づいていることにある。
(中略)
親が学生であろうが、主婦/主夫であろうが、働いていようが、子どもは基本的に保育を受ける権利がある。
(すなわち、自治体は保育環境を整備しなければならない)。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

大元からして違うフィンランドと日本。
日本は、保育が必要となる要件を満たさないと保育園に入ることができません。

私個人の意見としては、日本もフィンランドのようにあるべきだと思っています。
しかしながら、日本には昭和26年に制定された日本国憲法の精神に基づいた「児童憲章」というものがあり、そこにはこんな文言があるのです。

2 すべての児童は、家庭で、正しい愛情と知識と技術をもつて育てられ、家庭に恵まれない児童には、これにかわる環境が与えられる。

出たー。
子育て=家庭。

私は、日本の保育園は素晴らしいと思っているので、すべての子どもがこの素晴らし環境を享受できたらどんなに素晴らしいかと思っているのですが。。
日本は財源が無い?
そうですね。諦めます。。

大共感!自分を守るための嘘。

職場のパーティーに子連れで参加した朴さん。
走り回る子どもたちから目を離せずにいたところ、現地のスタッフに「自分が楽しむためのパーティなのに、なぜ子供に関心を向けているのか」と質問されました。
そして、ケガが心配と答えたら、「今日の食器は紙皿と紙コップだし、テーブルが倒れたら食材がもったいないけど、熱いものや刃物は無いから安心して」と言われたのです。

そもそも、ケガが心配というのは6割くらい嘘。

子どもに注意を向けていなければ、「悪い母親」と見なされて、どこの誰からどんなふうに、何を言われるかわかったものではないからだ。
(中略)
だから前もって「悪い母親」に見えないように振舞っておけばいいと思った。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

「母親が目を離した隙に」ってやつですね。

そして、スタッフの言葉を聞いて

私は子どもの怪我の心配ではなく、子どもを理由に私が攻撃されることへの心配から、開放された。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

すごい。
フィンランド、最高じゃん。

西加奈子さんも同じようなことを書いていました。

東京で私は、Sが、子供たちが、街から歓迎されていないように感じた。
(中略)
私はその度、大声を出した。
(中略)
嫌だったのが、自分が本当に危ないと、申し訳ないと思って声を出す時ではなく、
「母親として危ないと思っていますよ~、ちゃんと注意していますよ~、申し訳ないと思っていますよ~。」
という、周囲へのアピールのために声を出している時だった。

西加奈子著『くもをさがす』より

めっちゃわかります。
私も常に「ちゃんと注意していますよ~、申し訳ないと思っていますよ~」というアピールをしています。
例えば、子どもを乗せて自転車に乗る時、走行中、止める時。
ずっと「申し訳ないと思っていますよ~」アピールです。

「子どもを理由に私が攻撃されることへの心配」から解放されたらどんなに良いだろうか。

ニュースで「母親が目を離した隙に」なんて、わざわざ言わなくてもよくないか?

「スキルは練習できる」という意味

2人のお子さん(ユキちゃんとクマくん)の保育園の先生とのやりとりにもハッとされられました。

先生方が評価するのは、お子さんの人格や才能ではなく、スキル。
教員のマニュアルで人格を評価してはいけないことになっているそうです。

才能や人格は批判できない。それは、ある程度まで持って生まれたもので、それによって生じるメリットもデメリットも、本人の自己責任だと思われている。
しかし、スキルはいつからでも、いつまででも伸ばすことができる。
どのスキルをどのていど伸ばすかは個人が自己決定できるし、周囲はそのスキルの練習を手伝うことができる。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

私はこの概念に救われる気がしました。

本の中にはこんなエピソードも登場します。
ユキちゃんのことが気になって、からかってくる男の子・エリオットの話。
好きな子にいたずらをしてしまう「アホな男子」として、腹が立ちながらも朴さんは放っておきました。

しばらくして、エリオットがユキちゃんをからかうのをやめたというので何があったのかを調べてみると、クラスで話し合いが行われたそうです。
クマとウサギの絵本を読み、物事を笑うことと、人を笑うことは別の事だと教え、前者は友達と楽しめるが、後者はそうではないと。

エリオットは友達を楽しませる技術を知り、それを練習する必要があります。

そのため、自分のやっていることを意識化する方がいいと私たちは考えました。だから、クマとウサギのお話しを読み、友達を嬉しい気持ちにする方法に何があるのかを話し合いました。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

私も、男の子のお母さんとして、「男子はアホ」という箱になんでも入れてしまうことがあります。

「男の子はやんちゃ/アホだから、〇〇しても仕方がない」という説は、その男の子にとっても害があると思う。それに、〇〇された側の人間が嫌な気持ちになったとしても、その言葉で封じ込めてしまいはしないか。
(中略)

しかりつけるのではなく、淡々と教えればいいのだった。物事を笑うことと、人を笑うことは別のことだ。
世の中には友達を楽しませる技術がある。だからそれを練習しよう。つい忘れてしまうけれども、何事も学習と練習が大事なんだなあ。

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

誰かの行動や言葉に傷ついた時、それがその人のスキル不足だと考えたことが私は無い。
「嫌な奴」「アホ」と思ってしまいがちだけど、才能や人格は批判しても仕方ない。しかし、スキルが足りていないのだとしたら、それはその人が練習すれば良いことだし、周りも助ければ良いなんて、考えたこともなかった。

目から鱗~!

才能や人格を批判しない。才能や人格と「スキル」は分ける。そして、スキルは一生、練習できる。

私も娘(7歳)の行動を「意地悪」とか「優しくない」という批判をしがちです。日常的に、弟(3歳)に当たりがきついので。でも、そんなざっくりとした批判の言葉ではなく、娘には何のスキルの練習が必要なのか、私にできる「練習の手伝い」とは何かを考えたいと思いました。

感想 ~傷だらけの子育てだけど~

この本を読んで、私のわだかまりが一つ消えたような気がしました。
それは、私が子育てをする中で出会ったお医者さんや保健師さんという有資格者から言われた言葉の数々・・・。

例えば、第一子の1歳半検診の出来事。
私の娘は、5分にも満たない問診で「発達障害」と言われました。
理由は、1歳半が話すべき言葉の数が足りないから。
私は事も無げに、「私も言葉が遅かったので気にしてません」と言ったら、「お母さんも発達障害だったんですよ」と言われました。

ん?30数年生きてきて初めて言われたが?

娘の虫歯で行った歯医者さんには、「虫歯は母親のせい。ネグレクトだと思われるよ?」と言われました。
次からは夫に付き添ってもらいましたが、夫は何も言われず。

保健所の保健師さんには・・・と、子育てをしているとこんなエピソードに事欠きません。
どうして、母親とあれば、ひどい言葉を平気で投げつけられるのか。
私の何を見て、何を根拠に批判できるのか。
医師免許というのは、初対面の大人を一瞬で「発達障害」「ネグレクト」と言っても良いという資格なのでしょうか?
私にはただの侮辱としか思えません。

人格と才能とスキルを分けて考える。
人格と才能は批判しない。
スキルは一生、練習できるし、誰かに練習を手伝ってもらえる。

私が批判されてきたのは、人格の部分だと思っていたけど、スキルが足りなかっただけ・・・とも言い切れないけど、ひどい言葉を投げられた時、自分のどこを批判されているのかを冷静に考えてみようと思えました。

子育ては色々あるけど、色んなスキルを練習する機会を与えられているのかもしれません。

朴さんが大変だった時に、子育て支援の人から言われた言葉も素敵でした。

母親は人間でいられるし、人間であるべきです。
Mothers can be, and should be, humans!

朴沙羅著『ヘルシンキ 生活の練習』より

この言葉に救われている時点で、私もまあまあヤバいとも言えるか?

子育てに偏った感想になってしまいましたが、「社会で生きるとは」について知見を得られる素晴らしい本でした。

【おまけ】See the Good! カードについて

保育園の面談のエピソードに、See the Good!というカードが登場します。

「人間に共通する、26個の強みカード、10個のアクションカード、7個の感情カード、5個のアセスメントカードをまとめたもの」というカード。

めっちゃ気になる!と思って調べてみましたが、今のところ、日本には無いみたいです…。
が、詳細がわかるサイトを見つけました。

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